大判例

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広島地方裁判所 昭和45年(ワ)95号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原告は、前記ストマイの内服及び注射により難聴になつた旨主張するので判断する。

原告が、昭和四三年二月上旬頃から被告村上に耳鳴りや難聴を訴えはじめたことは、<証拠>により明らかであり、弁論の全趣旨に照せば原告がその頃から現実に難聴症状をきたしていたことが明らかであり、鑑定人原田康夫の鑑定の結果によれば、原告は現在もなお中等度の難聴症状を呈していることが認められる。

そこで、原告の右難聴症状とストマイの内服及び皮下注射との因果関係につき検討する。

<証拠>を総合すると、ストマイは、多くのグラム陰性菌、抗酸菌の感染症に対して有効な抗生物質であり、主に結核症の化学療法として広く用いられているが、これを使用した場合、内耳有毛細胞部に影響を与え、副作用として難聴、前庭機能障害等が発現することがあること、ストマイ投与による難聴等の副作用は、ほとんどが注射による投与の場合であつて、内服による場合は稀であること、副作用は、必ずしもストマイの使用量に応じて発現率が増大するものではないが、一般には、ストマイを筋肉注射により大量に連続投与した場合に発現する率が高いこと、ストマイには、硫酸ストマイ、ヒドロストマイ、複合ストマイ等の種類があり、硫酸ストマイ、ヒドロストマイの筋注毎日法(筋肉注射により毎日投与する。)により治療が行なわれた頃には、難聴等の症例が相当数生じていたが、その後、複合ストマイが開発されるに及んで、副作用の発現率は、著しく減少した(一三六例についてのある調査によると聴力障害の例は全くない。)こと、が認められる。

しかして、被告村上は、前記のとおり原告に対し内服及び皮下注射により各二グラム、合計わずか四グラムのストマイを投与したに過ぎないし、また被告村上孟太本人尋問の結果によれば、右投与したストマイは、複合ストマイであることが認められ、しかも、前記のとおり原告が難聴症状を呈したのは、ストマイ投与から約四カ月を経過した後のことであつて、これらの事実に照らすと、原告の難聴が右ストマイ投与により発現した可能性は、きわめて弱いものと推認せざるをえない。また、鑑定の結果によれば、ストマイによる難聴の聴力型は、八〇〇〇H2より聴力低下が起ることが多いが、聴力検査の結果では、原告は、四〇〇〇ないし六〇〇〇H2の方に聴力低下が表われており、原告の難聴は、むしろ職業性難聴型(騒音性難聴型)を示しているのであつて、ストマイ投与によると考えるよりも原告の素因によるものと考える方が妥当であることが認められる。

以上検討したところによれば、原告の難聴が前記ストマイ投与によるものと断定することは困難であるといわざるをえない。

もつとも、<証拠>によると、ストマイをわずか数グラム投与したのみで突発的に早発難聴が発現したり、ストマイ投与中止後四カ月以上経過後に難聴が生じた例があることが窺われるが、このことから直ちに原告の難聴が前記ストマイ投与によるものということはできない。しかも、本件においては、他に右の因果関係を証するに足りる証拠はない。

(竹村寿 高升五十雄 井上郁夫)

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